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大正初期創業の銭湯 まちの文化財の未来

東京都北区滝野川にある「稲荷湯」は戦争で焼け残った情緒ある一帯に立地する昭和5年の銭湯で、屋根と破風が3段重なる正面構えが特徴的です。稲荷湯の周辺は細い路地が巡り、床屋や木造民家といった趣きのある街並みが残るなど、かろうじて大規模開発を免れています。近年多くの銭湯が店をたたむ中で、100年以上もコミュニティの中心であり続ける秘訣とは。実際の銭湯の裏側も見せていただきながら、お話を伺いました。


大江和希(以下.大江)──まず、稲荷湯の紹介をお願いします。
土本俊司(以下.土本)──稲荷湯は大正4年ごろに創業した、このあたりではおそらくいちばん古い銭湯です。

栗生はるか(以下.栗生)──現在、銭湯は東京都で500件ほど。その中で登録有形文化財に指定されている銭湯は2軒だけです。戦後、焼け野原になったあとに銭湯が一気に増えましたが、稲荷湯のような戦前の銭湯はほぼ残っておらず貴重です。
土本──全国でも現役はもう数えるほどですが、廃業したまま残っているものもありますね。
栗生──そういうものを入れたとしても数えるくらいだと思います。稲荷湯の特徴は番台式と格天井ですね。外観的には屋根と唐破風が3段構えというのは珍しいです。脱衣所に庭が必ずついているというのも典型的な構成ですが、ここは噴水が出る仕掛けがあるそうです(笑)。戦前の銭湯は割と小ぶりにつくられていて、格天井以外の外周部は後から増築していて、女湯も同じく増築しているそうです。
大江──この銭湯にはどういう方が来られるんですか。
土本──近所の方は高齢の方が多いですね。あと近くに大きいマンションがあるので子連れの方もよく見られます。ほかにも最近は遠くから来られる人も多いです。
大江──それはやっぱりCMや映画の影響でしょうか?
土本──そうですね、若い方はそうした理由が多いですね。
大江──この辺りの方たちが銭湯に集まるのはなぜだと思いますか?
土本──やっぱりリラックスできるんじゃないですかね。昔は社交場という、話をするための場所があったんですけど最近はそうした場所がないですからね。高齢の方は代わりに銭湯に来て話されていますね。
栗生──気づいたら洗い場には人がいないのに、更衣室にはたくさん人がいるみたいなことが起きています。話を聞くと、1日で唯一楽しいのが銭湯に来る時と言う人もいます。


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