リサーチ > WORKPLACE STUDIES > デジタルノマドとワークプレイス

デジタルノマドとワークプレイス

IT技術を活用して、世界中を旅しながら仕事する「デジタルノマド」というライフスタイルが、欧米で流行している。先日、デジタルノマドの拠点についての修士論文「遊動領域における拠点の場所性に関する研究-東京におけるデジタルノマドのコミュニティを対象として-」を発表した陳さんに、調査対象のカフェでデジタルノマドが選ぶワークプレイスについてお話を伺った。


西牧菜々子(以下.西牧)──まず、デジタルノマドに興味を持ったきっかけを教えてください。
陳禹鳳(以下.陳)──最初に修士論文のテーマを考えた時には、実はデジタルノマドではなく東京圏のノマドワーカーのことをいろいろと調べていました。現在のノマドワーカーはキャンピングカーで都市を移動しながら、キャンピングカーに泊まって各地で仕事をしています。そのような人たちのことを調べたいと考えていたのですが、東京にはあまりいませんでした。そこで少し方針を変えて、都市の中でノマドワーカーがどのように生活しているかについて調べてみようと思いました。『TheCivicCityInANomadicWorld』(CharlesLandry,2017)という本があり、その中に今のノマドワーカーの種類が沢山紹介されているのですが、その本でデジタルノマドのことを知ったことをきっかけにいろいろ調べ始めました。
下吹越武人(以下.下吹越)──ノマドワーカーの存在についてはいつごろ知ったんでしょうか?
──以前から知っていました。ノマドワーカーは昔からある職業ですよね。仕事が先にあって、仕事がある場所に行く。そういう仕事のあり方として以前から興味を持っていました。
下吹越──キャンピングカーで移動するノマドワーカーではなく、伝統的なノマドワーカーですね(笑)
──そうですね。そこから始まって、デジタルノマドは時代に合わせて発展してきたことで、新たな集団としてまた出てきました。
下吹越──設計事務所で働く人ノマドワーカーが結構いて、ヨーロッパの若い建築家はプロジェクト契約でいろいろな事務所を移動するようです。たとえばザハ・ハディドの事務所のビックプロジェクトを担当して、そのプロジェクトが終わったらレンゾ・ピアノのプロジェクトチームに加わっている。そうやって転々としている人が多いと聞きました。
──そうですね。アメリカのハリウッドでも、ひとつの映画のプロジェクトが終わったら他のチームに入って別のプロジェクトをやるというかたちで、それと同じような働き方をしている人たちがいます。下吹越──デジタルノマドはどのように定義していますか?
──自分の家を持たずにフリーランスや自分の会社を経営しており、パソコンでデジタルに働いて常に世界中を動いている人がデジタルノマドです。そのいちばんの特徴は、ロケーションに依存しないということです。
下吹越──どうしてデジタルノマドは転々と移動しているんでしょうか?
──そういったライフスタイルが欧米で流行っているということもありますが、今はIT技術やインターネット環境の普及により、自分の会社に行かなくても生計が立てられ、生活ができるからです。
下吹越──なるほど。価値観として移動しながら生活することを選択している人たちなんですね。そこが普通のデジタルワーカーとは大きく違いますね。
──デジタルノマドは移動しながら仕事をしている、そこに違いがあります。
西牧──日本よりも欧米でデジタルノマドが流行っているとのことですが、実際に調査した結果どこの国の人が多かったですか?
──実際に私が調査して回答してくれた22人のうち12人がアメリカ人でいちばん多かったです。
西牧──半分以上ですね。アメリカ人が多い理由はどこにあると思いますか?
──それは、アメリカのシリコンバレーでスタートアップする人が多く見られるように、自分の力でなにかをつくる、自分の力を信じて能力を身に着けるという生き方にみんなが憧れている。ひとつの会社で働くのではなく、いろいろな国に行っていろいろな文化を見ながら刺激を受けて物をつくり出す、アメリカ人はそういう考え方を持っている人が多いからだと思います。


陳禹鳳(チンウホウ)
1989 年台北生まれ、実践大学建築学部を卒業。
2015 年に来日し、2020 年法政大学建築専攻を修了。

インタビューを行った、デジタルノマドが多く集まる渋谷のカフェ「Fab Cafe Tokyo」の外観


インタビューの様子。周囲の席ではデジタルノマドの人たちが仕事をしていた