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鎌倉のささいなふるまいの気づきを記録する

このプロジェクトでは山と海に囲まれた特徴的な都市「鎌倉」を舞台に鎌倉を横断するように通る滑川を軸に山から海にかけて住宅から滲み出るふるまいが都市の中でどのように変化しているのかを調査・分析しました。鎌倉の住宅の表に出るふるまいにはその土地ならではの個性が現れています。それらのふるまい一つ一つを写真によって切り取り、山から海にかけてエリアを分割していきながら段階的に各エリアの個性を整理していくことによって鎌倉の都市構造を読み解くことを目指しています。

研究背景

2022年の初めに鎌倉でセルフビルドのガレージを制作するプロジェクトを行なっていました。そのプロジェクトの間は鎌倉で過ごす日々が毎日のように続き、昼ごはんまでの道のりや宿への帰り道の途中など鎌倉を練り歩く生活から、私たちは住宅の表に出てくる住まいのふるまいに鎌倉という都市の面白さに気がつきました。例えば住宅の表に出ている一つの要素であるガレージに着目してみても住宅に対するガレージの成り立ちが多様にあることが発見できました。


住宅を支えるように突き刺さるガレージ

住宅の部屋の一室のようになっているガレージ

2 階の居住部分を担ぐように成り立つガレージ

住宅とは距離を置き離れた位置に独立するガレージ

そのような背景から私たちが歩き回っていた道路から住宅を見たときの表に見えているものを取り上げ、鎌倉に点在する多様な住宅の表の見え方を整理することによって私たちが鎌倉に過ごしている間、感じたささいなふるまいへの気づきから鎌倉という都市の構造を分析できるのではないかと考えました。


研究方法

私たちは都市に点在するふるまいを写真によって切り取っていきました。切り取られたふるまいは冒頭で取り上げたガレージのような住宅の表を構成する要素を見つけ、それらを比較していくことにより鎌倉を読み解いていくことを目標としました。

比較によって明らかになってきたふるまいの特徴をグループ化し、共通する根拠からプロトタイプ化、そして言語化していくことによって鎌倉の都市の特徴をまとめていきました。

そしてそれらの言語化された鎌倉の特徴をそれぞれのエリアに再び戻し、言語化することによってわかった特徴の分布を見ていくことで私たちが写真に収めた非日常な風景から鎌倉の都市の構造を明らかにできるのではないかと考えました。

鎌倉は山と海に囲まれ、駅を中心に枝分かれ状に街区が分かれている特徴的な都市構造がなされています。そして鎌倉の中でも海の集落と山の集落での生活は当然違うものであることが予想できます。そのような背景から住宅の構が海から山にかけてどのように変化しているのかを分析するため海から山まで連なる川を軸に調査を進めました。滑川にかかる橋を基準に海側、鎌倉駅付近のエリア、寺町エリア、報国寺付近のエリア、山側のエリアの4エリアを対象とし、変遷を分析していきました。

滑川を軸とし、そこにかかる橋を中心に剪定した調査対象エリア


基準とした橋を中心に半径50m 以内の住宅を対象に表に現れるふるまいを写真によって切り取っていきました。

例1: エリア9の住宅の表に出るふるまい

例:2 エリア15 の住宅の表に出るふるまい


考察・分析

道路から見えた住宅の表の写真の切り取りから鎌倉の住宅の表を構成する要素としてガレージ、橋、塀、正面口の四つに分けることができ、それらの比較分析していきました。

グループ分けされた四つの要素がそれぞれ鎌倉の住宅に対してどのような関係性を築いているのかをさらにグループ分けしていきました。住宅との関係の中でなぜ私たちが非日常に感じた風景なのかを馴染みやすい用語を用いて言語化、ダイアグラム化していきました。

これらの非日常な風景を言語化したダイアグラムは鎌倉を構成している特徴としてまとめました。これらのダイアグラムとそこにまとめられた写真が私たちにとっての非日常な風景であり、鎌倉の都市で見られる特徴です。

鎌倉に散りばめられたふるまいを言語化・ダイアグラム化することによりまとめた表

そして最後にそれらの鎌倉の特徴としてまとめた言語をそれぞれのエリアに戻し、都市構造を分析していきました。海から山にかけての鎌倉の様相の変遷を明らかにし、鎌倉の生活の中で感じた多種多様で非日常な振る舞いに規則性を見出すことによって鎌倉の都市構造を読み解いていきました。

例1: エリア9 の特徴の分布

例2: エリア15 の特徴の分布

結論

これらのリサーチから住宅の表を構成する「ガレージ」、「橋」、「正面口」、「塀」という大きな四つの要素の中で海から山にかけて、それぞれの都市の特徴を捉えることができました。

まず「ガレージ」です。鎌倉のガレージは海から山にかけて共通して住宅の一室のように成り立ち、住宅と一体となって取り付けられていることがわかりました。また、それに加え海側(滑川下流)では住宅に対してガレージが近接する関係性が多く見られました。対して鎌倉駅付近と寺町を境に住宅に直接くっつき、そこにすだれをかけたり冷蔵庫を置いたりと生活が表へと出てくる風景が見えました。そして滑川上流では報国寺と山側を境にガレージの屋上を利用するようになり、ガレージがより住まいの一部として浸透していることがわかりました。

以上のことから、海から山にかけてガレージのあり方を見ていった時に海から山にかけて徐々にガレージが生活を営む場の一部として成り立っていくような変遷がわかりました。

鎌倉における「ガレージ」の特徴


続いて「橋」です。鎌倉の橋は滑川下流から中流にかけては万人に利用されるパブリックなものとして成り立っていました。しかし、報国寺付近を境に滑川上流では橋を利用する人が特定化されていき、複数の世帯で共有するコモンスペースとして橋の意味合いが変化していました。それに加え、一世帯のみが利用する極めてパーソナルな橋も見られ、橋が特定された少数のためのものになっていました。

このような結果から海から山にかけて橋のあり方を見ていった時に橋がパブリックなものからコモンを作るようなものにかわり、さらにパーソナルなものへとスケールダウンして成り立っていくような変遷がわかりました。

鎌倉における「橋」の特徴


次に「正面口」です。鎌倉の正面口は滑川下流から中流かけて住宅を化粧するように敷地内のふるまいを隠しているように感じました。一方で寺町エリアを境に滑川中流から上流では車や階段、ボイド空間が門の役割を果たすようになり、「オク」にあった住宅が道路に対して「ミセ」になるような佇まいになっていました。さらには寺町エリアを跨ぐように道路に対して直接住宅が接し、「ミセ」の概念が強調されていました。

このような結果から海から山にかけて「オク」の概念よりも「ミセ」の概念が強調されるようになっていることがわかります。

鎌倉における「正面口」の特徴


最後に「塀」です。鎌倉の塀は正面口とは対極に滑川中流から上流にかけて住宅の周囲を化粧していることがわかりました。また、護岸に対して高い塀が建てられ住宅を「オク」に隠している風景が色濃く見えました。

以上のことから海から山にかけて塀のあり方を見ていくと下流ではあまり見られなかった「塀」という要素が寺町を境に中流から上流にかけて次第に現れてきて、住宅の姿を隠していくような変化がありました。

鎌倉における「塀」の特徴

まとめ

鎌倉の住宅の表に出ているふるまいをリサーチしていくことによって同じ鎌倉という都市でも山から海にかけて段階的に見ていったとき、各エリアによって住宅でのふるまいが異なっていることがわかりました。また一方では、山から海にかけて共通しているふるまいも同時に存在していることもわかりました。

これらを踏まえて都市構造を読み解いていく上で、都市の特徴を俯瞰的な目で語ることはできず、住宅の表に表出する「ささやかなふるまい」のようなスケールダウンしたリサーチから都市の特徴が垣間見えることに気付かされた(担当:竹山周作、辺士名泰、光井亮二)。